2025-02-11 スピーチを妄想する

機会がある度に、スピーチは任せろと声をかけているが、一度も認められたことがない、実に賢明だと思いつつも不服である。この度、放課後の小学生感覚でよく遊ぶ友人が、結婚式の計画を真面目に考え始めていたので、迫り来る孤独の予感に寂しく思いつつも、祝いたい気持ちは本物であるので、読ませて貰えないなりにスピーチを一つ拵えてみるかと思った次第である。

第一稿

まず、このような晴れの日に、皆様の前でお話しする機会を頂けたことに感謝申し上げます、小時間のお付き合いどうぞよろしくお願いいたします。
私が新郎と出会ったのは、大学の研究室であり、ありふれた出会いの一つです。彼と怠惰に遊ぶようになったのをなぜかと振り返ると...ザリガニを釣りに行ったり...ザリガニを釣りに行ったことぐらいしか思い出せませんが...今ではザリガニを食べに行く友です、隠語ではありませんよ?
我々が今まで仲良くできた理由を求めれば、いくらか挙げることができるでしょう。例えば、新郎は妙に付き合いが良いとか、対人面で物怖じしないとか、前髪がくねっているとか、やたらうんこの話をするとか...しかし、それらの美徳があるから上手く行ったのかと問われると納得しかねます。恐らく、仲良くできる理由というのは簡単に要素に還元できるような物ではないのでしょう。彼を形作るぼんやりとした総体、それこそが我々の、そして皆様の間の関係を作っているのではないでしょうか、実に浅い結論ですね。考えるのが面倒で放り投げたというのが実態ではありますが、何はともあれ、一つだけ確かな事があります。彼の人格、人徳が私のような悪鬼羅刹に取り憑かれるに十分なものだということです、前世があるとしたらさぞ悪行を積んだのでしょう。
さて、そんな新郎とのロクでもない思い出を延々と語りたいところですが、おめでたいのか新婦側のご親族が不安になり出した頃合いかと思いますので、次は天秤を意識して新婦についてお話をさせて頂きましょう。
私と新婦はあまり面識がありません。新郎を通じて何度かお会いしたことがありますが、その度に必ず発生したイベントがあります。新婦からのコカ・コーラの押しつけです、決まって700mlのコカ・コーラを渡されます。正直、700ml飲むのは辛いので、よく冷えた350mlでお願いしたいのですが...それはさておき、それ以外の出来事がほとんど記憶にありません。一度など、ソファの組み立てを手伝えということで、お二人の部屋にお邪魔したことがありますが、新婦はぐっすりと寝ていました。怪しい男がやってくるのに平気で寝ているあたり、大した器だと感心したものですが、起き上がるや否や何を始めたかというと、お分かりですね、そう700mlです、押しつけられまして...冷えていたのはありがたいのですが...350mlでお願いしたいと思います。
ということで、私からみたお二人は、なんと申し上げればいいか...実に自由闊達で羨ましい限りであります。それ故に、お二人がどのような道を歩んでいくのか、予想すらできず興味深くあります。これからは今まで以上に長い道のりです、道中様々な障害もあるかと思いますが、これからも変わらずやりたい放題に課題と向き合い、投げすて、乗り越え、その道のりが幸多い物であること、そしてコカ・コーラは適量であることを心よりお祈りいたします。最後に定型の挨拶で恐縮ですが、ありきたりな言葉を述べさせて頂きたいと思います。しかし、皆様そろそろ味変したくなってきた頃合いかなとも思いますので、日本語モールス符号で述べさせていただこうと思います。
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ご清聴ありがとうございました。

反省

結婚式において長いスピーチは認められないだろう、そして新郎・新婦双方に一応面識があるので語る時間の天秤を合わせよう、敵対的ではない相手の晴れの日なので許される程度に発言を抑えよう等々、真面目に向き合い出すと無難な内容になってしまう。なるほど、晴れの日のスピーチがつまらないのはこういうことかと学びは得たが、そんな退屈なものを認めることはできない。
どこに工夫の余地があるだろうか、長さをもう少し短くしたいので削ることを考える。読み直すと、コカ・コーラ天丼はそんなに面白くもないので関連話題を捨て去るのが良さそうに見える、そもそも新婦との面識は浅いので天秤など不要だろう。新郎と仲良くできた理由についての検討も全くもって無駄なので削除で良い。代わりに、ロクでもないエピソードでも差し込んでみよう。

第二稿

新郎側証人は、この晴れの日にあたり、嘘偽りのない事実を述べることをここに誓います。
今年一月、新郎から「結婚式を開かないか、証人から百万円ご祝儀を出してもらい開催するか」と支離滅裂な発言を述べられことは事実です。その後も、友人の結婚式に出席しては「出席者は食べたくないご飯のために3万円払い、開催者はそれでも費用を回収できないので、結婚式はlose-loseなのでは」といった旨の発言を行なっており、結婚式とそれに付随する披露宴に対して、度々私的なお財布視点ばかりを持ち出してきたのは厳然たる事実です。また、彼の口から、結婚式のみ行い、披露宴を開催しないという選択肢について検討しているのを聞いたことはありません。その結婚式や披露宴に関しても具体的な規模や方式についての言及は聞いたことがありません。彼の口から出るのは、常に披露宴を用いていかに開催費用を回収するかについての検討だけです。それ故に、証人は新郎が根っからの吝嗇家であり、慶事に関する社会慣習に対しての意義をなんら感じていないと確信しています。
そのため、本日このような式の開催に、ただひたすらに困惑しております。勿論、新郎・新婦は所謂パワーカップルであり、経済的負担への問題は忌避感だけであると認識しています。新郎・新婦間、あるいはその親族の式開催への意識の方がより重大な問題であると考えており、新郎の意見が棄却されること自体はあり得るのかと思います。しかしながら、多くの疑問が脳裏を渦巻きます、資金回収する算段でも見つけたのか、今まで聞かされた考えはなんだったのか、これからどんな愚痴を聞かされるのか。一体どんな顔して祝えばいいのか悩ましいのが正直な心境であります。
証人の内心はさておき、新婦、ご友人、ご親族におかれましては、このような晴れの日を迎えましたことに対し、お祝い述べさせて頂きたいと思います。(以下略)

反省

流石にこの冒頭は許されないだろう、どう足掻いても場の空気を回復できそうにもないので、ここで筆を置くことにしよう。彼の放言は嫌いではないのだ、それに対して悪意も特にないのだが、なぜか悪意の塊のようなスピーチになりそうである。新郎に対してだけ言及しようとすると、日頃の不謹慎で斜に構えた阿呆な言動に収束してしまうので、どう足掻いてもまともな方向には進めないのではないだろうか。
こうなってくると、新郎・新婦について一切語らず乗り切れないかと考え始めてしまう。スピーチの主な趣旨は、場にあった形で、お祝いを述べることにある、退屈を認めないという私の願望の優先度は下げねばならない。汎用な例文を元に多少の脚色を加えて満足いく仕上がりにならないか検討してみよう。
私:
新郎側の友人として、結婚式でスピーチする際に使える汎用的な例文を教えてください

ChatGPT:
結婚式スピーチ(新郎側友人向け)例文

(1)冒頭の挨拶
皆さま、こんにちは。本日は、お忙しい中〇〇さん(新郎)と△△さん(新婦)の結婚式にご参列されていることと思います。
私は、新郎〇〇さんの友人の□□と申します。本日は、このような素晴らしい場でスピーチをさせていただく機会をいただき、大変光栄です。

(2)新郎とのエピソード紹介
〇〇さんとは(大学時代/職場/趣味を通じて)出会い、かれこれ〇年の付き合いになります。
初めて会ったときの印象は(真面目/優しい/面白い)人だな、というものでしたが、付き合いが長くなるにつれて、その印象はますます強まりました。
特に印象的だったエピソードとしては……(新郎の人柄が分かる具体的なエピソードを話す)。

(3)新婦との関係や印象
そんな〇〇さんですが、△△さんと出会ってから、さらに素敵な人になったと感じています。
お二人が一緒にいる姿を見ると、本当にお互いを大切にされているのが伝わってきます。
△△さんは(優しく、しっかりされている/明るくて社交的/料理が上手で家庭的)な方で、〇〇さんにぴったりの素敵な方です。

(4)お祝いの言葉と締め
これから始まるお二人の新しい人生が、笑顔と幸せに満ちたものになることを、心から願っております。
そして、〇〇さん、△△さん、お二人で力を合わせて、素晴らしい家庭を築いてください。
本日は、本当におめでとうございます!

(最後に、グラスを持って「乾杯!」と締めても良い)

このスピーチをもとに、具体的なエピソードを加えると、より感動的で心のこもった内容になりますよ!
これは非常に期待が持てる。

第三稿

皆さま、こんにちは。本日は、お忙しい中、結婚式にご参列されていることと思います。 私は、新郎さんの友人の日々是快便丸と申します。本日は、このような素晴らしい場でスピーチをさせていただく機会をいただき、大変光栄です。
新郎とは、大学の研究室で出会い、かれこれ長年の付き合いになります。 初めて会ったときの印象は眼鏡をかけている人だな、というものでしたが、付き合いが長くなるにつれて、その印象はますます強まりました。 特に印象的だったエピソードとしては、眼鏡を踏み壊した翌週に、遊びに行った川で眼鏡が流され苦労したというものです。
そんな新郎ですが、新婦さんと出会ってから、さらに素敵な人になったと感じています。 お二人が一緒にいる姿を見ると、本当にお互いを大切にされているのが伝わってきます。 新婦さんは多分眼鏡をかけている方で、新郎さんにぴったりの素敵な方です。
(お二人が出会った後のことしか知りませんし、お二人が一緒にいる姿をほとんど見たことありませんし、新婦さんの容姿も覚えていないのですが)
これから始まるお二人の新しい人生が、笑顔と幸せに満ちたものになることを、心から願っております。 そして、新郎さん、新婦さん、お二人で力を合わせて、素晴らしい眼鏡を築いてください。 本日は、本当におめでとうございます!
(最後に、グラスを持って「乾杯!」と締めても良い)
このスピーチをもとに、具体的なエピソードを加えると、より感動的で心のこもった内容になりますよ!

総括

結論、私の力量ではスピーチなど務まらないことがわかった。何かやらかす以前に、力不足であることを看破されていたのだろう。今後は身の丈に合わない野望など抱かず、人の皿を狙うことだけに集中することにしよう。もっとも、結婚式に呼んでくれる友人というものは実在しないので杞憂なのだが。