2025-02-09 善光寺詣

首都圏にある五歳児、年寄るまで善光寺を拝まざりければ、心うく覚えて、あるとき思ひたちて、ただn人、新幹線より詣でけり。
善光寺は、一定以上の世代だと知らぬ者がないとされる程大層有名な寺院らしいが、ナウいヤングである私は最近まで知らなかった。きっと教養の問題だろう、だって五歳児だもの。インスタ映えのため戸隠神社に行こうと計画していたが、それだけだと交通費が勿体無いので、ついでに寄ってみるかと見習うべき敬虔さで向かってきた。
伝統宗教が現代において再成功を収めるには格式なぞ捨てて、メガチャーチの方向にメガ進化した方が成功する気配があるが、このような時流に合わせた変化は、何も近年だけの動きということもない。善光寺もその歴史の中で、様々な信仰を取り込み闇鍋のような世界観を構築してきたのは事実だろう。今でこそ格式高い古代寺院といった風ではあるが、そんな歴史を思えば宗教テーマパークとしての楽しみかたも見えてくるというものだ。
善光寺の目玉アトラクションといえば、「お戒壇巡り」だろう。明かりのない通路を一周歩いてお天道様のありがたみを体感する、お化け屋敷の一形態である。競合他社として清水寺の「胎内めぐり」が挙げられるだろう。この種のアトラクションはいつの時代でも無限の可能性を秘めている。想像してみよう、閉暗所、前に綺麗なお姉さんがいたら!私も神仏のご配慮があったか、そのような機会に恵まれたので、鼻息荒く、全力で追いかけてきた。頼む、閉暗所の恐怖で限界なんだ、前後は手遅れとして上からも漏らしそうだから早く進んでくれ!
お戒壇巡りのある本堂であるが、そのイルミネーションも見落としてはいけない。絶対秘仏として覆い隠されている本尊はさておき、実態は神像ではないかとされる怪しげな「本田善光」像、両側から参拝者を見下ろすなんだか格好良いものを抱えている大仏、今回は探し損ねた守屋柱...見どころ満載である。さらには時期が会えば、回向柱、善の綱など季節限定のイルミネーションを楽しめたりするのだから、時たま通ってみるのもよかろう。
もう一つのアトラクションは経蔵だ。中央の輪蔵には、一切経全巻が収められており、一周回すことで全て読んだのと同じ功徳が得られる云々、教養不足でなんのことかはさっぱり分からない。分からないが、輪蔵の重さは約5tというのだから、かなり気合を入れて押さないと動かない、つまり功徳というのはさぞ重みのあるものなのだろう。そんな功徳を大量に積み上げたゴータマは山のような屈強な男だったに違いない。輪蔵を押すのに一生懸命で内部の展示物を見る余裕すらなかったのが残念である。さらに気分を盛り上げるため、今の回転で何ワット分の功徳を積みましたと電光掲示板に表示して貰えないだろうか。
そんなこんなで、おまけのつもりが案外楽しんできたのであった。上の二箇所以外にも見所はあるが、周辺を含めればさらに広がる、かなり観光の余地のある寺院である。行くだけでも楽しめるかとは思うが、善光寺を楽しむ上で最高のスパイスは、十分な教養を備えることだと思う。これから善光寺に行こうと思われる方には、娯楽書として楽しめる「善光寺と諏訪大社[長尾]」辺りを起点に歴史を学んでみることをお勧めしたい。そんなこんなで文章を締めようとして思い出したが、守屋柱だけでなく、釈迦像も見落としている。要は見所満載なので、参拝の際には計画を十分に練られたい。
参考文献
長尾:善光寺と諏訪大社 (ISBN13: 978-4862659460)

余談

主目的の戸隠神社であったが、人混みを避けるために冬に来たのに、かなり混んでいた。とにかく外国人が多い、彼らの好みに合致するのだろう。確かに雪景色の奥社参道は見事なものであるが...